Experience the CMOS Annealing Machine

次世代コンピュータハードウェアのロマンを語ろう

概要

疎結合と全結合(後編)ではASIC版とMA版のそれぞれの特徴と現状を説明しました。ここではアニーリングマシンの黎明期から普及期へとシフトする時代で果たしてきたハードウェアとソフトウェアの役割を振り返り、この先果たしていく役割についても考察してみましょう。少し私見も入りますが、ハードウェア技術者がハードウェアに何を期待しているのか、について解説します。

アニーリングマシンのハードウェア実装とソフトウェア実装

世の中の流れを振り返ってみると、2011年にD-Waveの量子アニーリングマシンが発表され、その後もNTT/NIIのコヒーレントイジングマシン、日立のCMOSアニーリングマシン等、専用のハードウェアに実装されたアニーリングマシンが数多く発表され、この分野の研究開発を牽引してきました。これらの共通点は、量子あるいは光発振器、あるいは半導体CMOSといった物理的素子をスピンとして、イジングモデルをハードウェアで実現しているアニーリングマシンであるということです。

しかしその後、さまざまな問題への適用のしやすさという観点から、全結合イジングモデルを実装したアニーリングマシンが発表されています。日立のMA版CMOSアニーリングもその一つで、各社の全結合型アニーリングマシンがソフトウェアを用いて実現され、実際に社会課題への適用が開始されている状況にあります。ソフトウェアは、アイディアがあれば人がまるで言葉や文字を操るように、プログラミング言語やアルゴリズムを使ってやりたいことを試すことができ、チューニングによってさらに使いやすく、様々な社会課題に柔軟に対応し人々の目に見える価値をもたらします。

ハードウェア開発の苦労、そして高いポテンシャルがもたらすロマン

ハードウェアに実装したマシンは様々な制約があり使いづらい面があります。ハードウェアでやりたいことを試すには、ハードウェアに実装されたデバイスを試作し、それを動かすためのシステムや装置が必要な上、試行錯誤をするにも設備や環境の変更が伴うため、実装から検証まで膨大な手間やコストがかかってきます。さらに、ハードウェア自体にも制約が多く、例えば、アニーリングマシンでは、数多くの結合を作りこむのが難しかったり、係数のビット数を増やすのも設計の労力がかかります。

しかし、そうした苦労の上にもハードウェアが一旦完成したなら、人々が驚くような圧倒的な性能を出せることがあります。それは、CPUや記憶装置を介して複雑な命令を実行するソフトウェアにくらべて、ハードウェアによる処理は専用の構成で処理を実行するため高速に処理でき、同時に省エネルギーであるためです。

ハードウェアのこのような特性を身をもって経験しているハードウェア技術者は、そのポテンシャルを信じているため、制約があっても、もっと速く、もっと微細に、もっと大きく、あるいはもっと小さく、と、繰り返しそのパフォーマンスを刷新してきました。さらに言えば、制約があるからこそ、それを克服してとてつもない性能を実現できた時の達成感が大きいのです。

これまでは従来のコンピュータにおける半導体の集積度が高度化していく過程で人々はそれを経験してきましたが、アニーリングという現象を半導体にやらせてみる、という日立の試みも、ハードウェアのポテンシャルを信じる技術者のロマンから始まりました。最初の半導体を作った人がスマホの出現など予想していなかったように、新しいハードウェアには想像もつかない技術革新を生むロマンがあるのです。

ハードウェア開発とソフトウェア開発の相互作用が新しい価値を生み出す

Annealing Cloud Webでは、専用の半導体ASICで実装したCMOSアニーリングマシンが使えますが、それを使ってアプリを構築しようとしても、結合などに制約があるため、問題が作れない、はまる課題がない、など、なかなかうまくいかないということがあるかもしれません。

あなたは、信号制御による渋滞解消のアプリを動かしてみて、このアプリを応用して別の分野に使えるかもしれない、と考えたでしょうか。それとも、他の実装のアニーリングマシンを触ってみたいと思ったでしょうか。もしくは、ASIC版アニーリングマシンよりも進化したハードウェアを開発することに魅力を感じたでしょうか。ソフトで革新を起こすこともハードで革新を起こすことも、この分野には重要なミッションです。

アニーリングマシンの分野では、最初にD-Waveによる量子コンピュータの実現、というハードウェアの実現がフックになり、研究開発が活発化しました。その後、ソフトウェア的なアプローチも登場し、今後はその双方が絡み合いながら進化していくと考えられます。こういったさまざまなレイヤが連携した研究開発により新しい価値を世の中にもたらすという例が増えてくると期待できます。

特定用途向け(ドメインスペシフィックな)ハードウェアが出現している昨今においては、それを超えるような技術を作ろう、という人々が現れ、ハードウェアとソフトウェアの開発がお互いに影響を与えながら活発になっていくと考えられます。こうしてその分野の研究開発を促進することに繋がるのです。

まとめ

  • 次世代ハードウェアコンピュータの開発には、ハードウェアならではの制約、実装や検証の手間とコストといった苦労があると同時に、制約さえ克服すれば圧倒的な性能を発揮するポテンシャルがあり、ハードウェア技術者にロマンを抱かせる。
  • アニーリングマシンでは、最初に物理的素子を用いたハードウェア実装が実現し、それがフックとなり、この分野の研究開発が活発化した。
  • 新しい価値をもたらすためにはハードウェア開発とソフトウェア開発が相互に影響を与え研究開発を促進することが必要である。
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