Experience the CMOS Annealing Machine

アニーリングマシン活用事例の現在地

~2024年版~

概要

アニーリングマシンが検証のみならず既に実在の課題を解決する手段としてビジネスに活用されていることを知っていますか?この記事ではこれまで公開されているアプリケーションの事例を取り上げていきます。アプリケーションという単語は適用という意味で、実際の課題に技術を適用して解決する手法のことを指し、スマホアプリといった形でも使われていますね。ビジネスに実在するどのような課題が組合せ最適化問題として処理され成果をもたらしているかを知ることはアニーリングマシンをあなた自身が課題解決に用いる方法を知るための重要なインプットになります。

物流や運送計画の最適化の事例

米国で最も忙しい港と言われるロサンゼルス港ではRTG(Rubber Tired Gantry crane : タイヤ式門型クレーン)と呼ばれる巨大なクレーンが海上輸送で届けられた製品のコンテナを適切な位置に運び、荷下ろしを行っています。何台もの輸送トラックが目的の貨物を目的地へ運ぶため待ち時間を港で過ごします。

ある最適化ソリューションベンダーがこのトラックの待ち時間を最小化することをめざし、量子アニーリングを活用し大きな成果を上げたのはD-Wave活用の著名な事例の一つとして紹介されています。このケースではパッケージソフトのカスタマイズの他、最適化する対象の定義や業務ルールの整備を含めた改善によって、トラックの待ち時間を減らし、結果的には貨物の持ち出し量を2倍にすることができました。※1

また、日本でIT機器の保守を手掛ける大手企業においては、拠点から顧客の元へ出向いて保守作業を行うサービスを提供し故障などの発生に応じてパーツセンタから部品を配送する配送計画立案にアニーリングを適用し、その計画作成にかかる時間を従来の10分の1であるわずか12分に短縮することに成功したことが発表されました。※2

後者の事例では故障の発生に応じ、その時の交通事情や運送車両、必要なパーツの種類と様々な制約が考慮される必要があり、経路選択だけでなく積みつける部品選択の組合せや時間的な組合せなどいくつかの問題が複合されていると考えられます。

物流や運送においてはこのようにいくつかの種類の最適化問題が混在しており、その組み合わせを考慮すると非常に複雑な処理になることがあります。

ロサンゼルス港の事例では、最適化したいことが色々ある中、トラックの待ち時間をKPI(Key Performance Indicator)と定義し最小化に取り組んだことが明らかにされています。また、単にアニーリングマシンを用いた最適化だけではなく、コンテナの置き方を変更することや予約システムなどにも手を入れ、総合的に業務効率を上げています。このように、アニーリングマシンを全体のシステムの一部として取り入れて、全体的な効率を上げていくという取り組みが増えていくのではないでしょうか。

勤務シフト作成・計画作成の事例

勤務シフトはアニーリングマシンによる最適化処理による効果が期待されている分野です。事業や業務の内容、サービス仕様や事業所規模、その他さまざまな条件によって最適化問題の制約が決まってきます。

サポート業務のコンタクトセンタのスタッフの勤務シフトをアニーリングマシンを用いて自動的に作成した例では、その作成時間を5割超削減することが可能となり、またこの試みに関してスタッフに対し行ったアンケートでは9割以上のスタッフが肯定的な意見を持ったとの結果が示されています。※3

金融事業者の大規模なコールセンタにおいても、アニーリングマシンを用いたシフト作成によって本来不要なはずの余剰配置を80%削減したとの結果が示され、業務での稼働に向けて検討が進められています。※4

大規模なコールセンターでは制約が複雑になるだけでなく、シフトの組み方による余剰(むだ)の発生が大きなコストとなってしまいます。制約を考慮しより良い結果を導き出すコスト関数を立て、導き出される最適解による恩恵が効果的に示される分野であると考えられます。

日立製作所の研究所では、上記の事例に先立って研究者の出社シフトをアニーリングで作成しています。※5

業種や事業所によっては、特有の様々な条件によりイジングモデルと制約式で表現することが困難な場合があったり、または、スタッフ規模としてはそれほど大きくないケースもあります。そのためアニーリングだけではなくソフトウェアアプリケーションや数理最適化ソルバーなど色々な方法を用いたシフト最適化ソリューションの普及が進んでいます。

勤務シフト以外にも生産工程などスケジュールに関する業務でもアニーリング適用事例があります。

印刷工程の計画作成にアニーリングによる最適化を適用し業務活用に成功している事例では、印刷工程の予定表作成に従来は一晩以上の時間をかけていましたが、アニーリングを適用することによってわずか1時間にまで短縮可能となりました。※6

誰もが知る印刷大手事業者でありながらアニーリングソフトウェアの開発、実用化まで成し遂げている極めてユニークな事例です。

ポートフォリオ最適化(金融における事例)

金融分野への適用も盛んです。損害保険引受業務において、災害などのリスクテイクと安定収益を両立する大規模かつ複雑な損害保険ポートフォリオ最適化問題にアニーリングマシンを適用した事例は、当サイトで詳しく紹介しています。

一方、同じ金融業務でも、株式などの投資分野においてアニーリングマシンを用いることで低リスクなポートフォリオの作成に成功し、実用を開始している事例も発表されています。※7

災害に備えた社会基盤である保険においても、株式などの投資商品においても、リスクを抑えてリターンを最大化するためのポートフォリオ最適化が求められます。

また、高速高頻度取引(High-Frequency Trading、以下HFT)においてHFT事業者が持つ独自の技術にアニーリングマシンを融合することでミスプライシングの検出と解消に活用することを目的とし、実際の金融市場において検証が行われています。※8

HFTでは他の投資分野よりもさらにアニーリングマシンの高速性が有効性を示しやすい分野であると考えられます。勤務シフトや最短経路を求める問題にくらべると投資の業務は深い専門知識がなければ理解しづらい世界です。人の心理的動揺に依存しないアニーリングマシンが市場のキーとなっていくのかもしれません。アニーリングマシンを学ぶために投資を学んでみてはいかがでしょうか。

広告配信最適化の事例

テレビのCM配信計画の最適化に量子アニーリングを適用されていることを知っていますか?この事例では、なるべく多くの人が偏らず様々なCMを目にするためにはどの放送局で、どの時間帯で、どのCMを放映するという組合せによる問題があり、それを既に量子アニーリングで最適化しているとのことです。※9

多くの人が普段の生活で視聴しているテレビとそこで配信されているCMが実はアニーリングマシンで最適化されているものかもしれないということは何とも驚きであり、また、逆にいえば、使う側が気付いていなくてもこんなに身近に組合せ最適化があるということの一例でもあります。

まとめ

以上、最適化する目的の似たカテゴリに分けて既に実用化されているアニーリングアプリケーションの事例を紹介しました。調達、倉庫、製造、運送など多種多様な業務から成り立っている物流や運送計画の事例にはそれだけ多くの最適化問題が存在しており、「何を最適化したいか」つまり「KPIは何か」を決めることが最初の論点といえそうです。シフト最適化の課題は「シフトを組みたい」ことに他なりませんが、事業者により制約や問題サイズが異なります。金融分野のポートフォリオ最適化問題は、比較的私たちにとっては目に見えない事象の最適化問題です。ただし、その解がもたらす損益は私たちの生活に多大な影響を与えます。投資活動は、経済動向に大きく影響します。広告配信最適化の場合は、裏側では最適化処理が行われていることを私たちが知らずとも、それを目にすることで、経済活動の一端を担っています。

この他にも検証段階を含めると多くの事例があり、驚くような高い成果を上げているものが存在しています。実際に社会課題に適用しサービスとして運用していくには、アニーリングマシンの使い手である技術者、ビジネスパーソンの知見が重要な鍵を握っています。1つでも多くのユースケースが登場し技術が蓄積することにより、必要なことを最適化するためのソリューションが構築され、課題解決のためのコストを下げていくことができるでしょう。

出典
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