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意思決定デザインフレームワークによる数理最適化社会実装ことはじめ(前編)

紹介文

今回はAnnealing Cloud Webの発信に賛同してくださっている日立コンサルティングの平井さんより、数理最適化技術の社会実装を進めるための手法についてご紹介いただくことになりました。

課題整理や要件定義を進めるときのヒントにあふれたコンテンツとなっておりますので、何から始めればよいか?何をどうやって言語化すればよいか?迷っている方はぜひご一読ください。

平井 伸幸

2017年日立コンサルティングに入社。機械学習や数理最適化の社会適用PoC・要件定義をはじめとしたデータアナリティクス系案件に多数従事。その知見を活かし、最適化技術の社会適用・活用推進を目的とした社内教育や日立グループの教育コンテンツ作成などの活動にも携わる。

また大学時代にデザインを専攻した経験を活かし、最適化システムのUI・UXデザインや社内でのデザイン勉強会にも取り組む。

はじめに

みなさんこんにちは、日立コンサルティングの平井です。

本コラムでは、人間の認知を最適化問題(イシュー)として捉え、そのイシューに対してCMOSアニーリングを含む数理最適化技術の適用を進めていくための入り口となるノウハウについてご説明したいと思います。

本コラムは2部構成となっており、前編では身近な意思決定の場面を題材に、弊社内で活用している意思決定デザインフレームワーク(FW)を使った認知のイシュー化手法についてご紹介します。

後編では、意思決定デザインFWを使う際のコツや、身近なイシューと巨大なビジネスイシューとの共通性、最適化技術のビジネスユースケース発見のヒントについて論じたいと思います。

なお、本コラムは安宅和人氏の著書「イシューからはじめよ」からいくつかのワードを引用しつつ論を進めておりますので、「イシューからはじめよ」をお読みのうえで読み進めていただくとより理解が深まると思います。

また、本コラムをよりビジネス寄りの観点で説明したコラムを別サイトに掲載しておりますので、そちらもご覧いただけますと幸いです。

忙しい方のための論旨まとめ

意思決定デザインFWでは、意思決定に関わる情報をアクション、価値、ルール・前提条件、参照情報・データという4つのエレメントに分類し整理する
アクションは5W2Hで定義する
価値は最大化または最小化したいものとその優先度を定義する
ルール・前提条件は「やってはいけないこと」を定義する
情報・データは予め知ることができるものを定義する

スパゲティペペロンチーノを作る

それでは身近な意思決定問題の例として、スパゲティペペロンチーノを作ってみましょう。

いま手元に材料がないので、最寄りのスーパーマーケットで材料(スパゲティ、オリーブオイル、ニンニク、唐辛子、イタリアンパセリ、塩)を調達しましょう。材料が調達できたら調理開始です。台所にはコンロが2口あり、まな板と包丁は1つずつ備え付けられています。

さて、みなさんが買い出しと調理を早く済ませるためには、どの順番で材料を調達しどんな順番で調理を進めればよいでしょうか?ここには2つの最適化問題が見て取れます。すなわち材料調達と調理です。これらを問題として図示すると、図1-1のようになります。

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図1-1a:スパゲティペペロンチーノの材料調達
図1-1b:スパゲティペペロンチーノの調理

この2つの問題には、人間の認知を最適化問題、イシューとして捉えるためのエッセンスが詰まっていますので、次からは意思決定デザインFWを使ってこれらのイシューの深掘りをしたいと思います。

意思決定デザインフレームワーク

それでは、ここから本コラムの核心に入りたいと思います。図1-2が意思決定デザインFWです。

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図1-2:意思決定デザインFW

意思決定デザインでは、意思決定に関わる情報をアクション、価値、ルール、情報・データという4つのエレメントに分類し整理します。

先ほどの材料調達と調理の事例の意思決定に関わる情報をFW上に整理すると、図1-3のようになります。これらの図を基に4つのエレメントの詳細について解説します。

画像はクリックすると拡大します

図1-3a:材料調達の意思決定デザインFW
図1-3b:調理の意思決定デザインFW

アクション:5W2Hで定義する

アクションは、意思決定したい事象そのものをさします。すなわち、材料調達ならば立ち寄る売り場の順番、調理なら作業の順番がそれにあたります。ただし、その表現では最適化問題としてはまだ漠然としているため、5W2Hで表現し直します。具体的には

材料調達:どこから(Where)、どこまで(Where)、どの順番で(When)、回るか

調理:どの作業を(What)、どの設備で(Where)、いつ(When)、開始するか

となります。数理最適化ではアクションのことを決定変数と呼び、その決定変数の5W2Hを組み替えながら最適な答えを探索します。

価値:最大化/最小化したいものと優先度を定義する

価値は、アクションによって得たい利得です。ビジネスにおいては、KPIやKGIとして定義される定量的指標をさします。

今回の事例では、材料を揃えてレジで会計を済ませてお店を出るまでの距離または時間の最小化と、調理開始からお皿にスパゲティを盛り付けて調理完了するまでの調理時間の最小化を目指します。

KPIやKGIの中には、売上や利益率のように大きくしたい指標もあれば、製品の製造リードタイムや在庫の変動数などの小さくしたい指標も存在します。数理最適化においては価値のことを目的関数と呼びますが、問題の規模が大きくなるほど複数の指標を同時に最適化することが求められるため、イシューごとに最大化・最小化したい価値を余りなくピックアップし、それぞれの依存関係と優先度を可視化しましょう。

アクションと価値の2つのエレメントは意思決定の基礎となるため、「イシューの骨格」と捉えることができます。

ルール・前提条件:「やってはいけないこと」を定義する

ルール・前提条件は、アクションを取るうえでの考慮事項になります。ルールや前提条件を逸脱したアクションを取ることはできません。

ルール・前提条件の定義では、明示的なものだけでなく暗黙的なルールも記載しなければいけません。

例えば材料調達では「それぞれの売り場に立ち寄る回数は1回まで」というルールを定義していないと、同じ場所をグルグルと逡巡するような案が提案されることがあります。また、レジを含めてすべての場所に立ち寄るよう定義していないと、材料の買い忘れや万引きをするような道順を提案してしまうこともあります。

調理の事例では、作業ごとにそれができる場所の定義や作業同士の前後関係の定義が必要です。材料を刻む作業はまな板の上でないとできませんし、火を使う作業はコンロの上でないとできません。また、先にお湯を沸かしておかないと麺をゆでることはできません。人間であればある程度経験的にわかることも明文化が必要です。

こうしたルールや前提条件を数理最適化では制約と呼び、制約を守りつつ価値を最大化・最小化する組合せを探索します。

参照情報・データ:予め知ることができるものを定義する

参照情報・データは、ルールを守っている、いないの判断や、価値の定量化に必要な情報です。そのため、それらは意思決定の前に知っている必要があります。

材料調達の事例では、それぞれの材料の売り場にスーパーの出入り口とレジを合わせた8地点のうち、任意の2点間の距離または所要時間がそれにあたり、調理の事例では、それぞれの作業の所要時間と調理できる場所が該当します。

これらの情報・データは、アクションの定義時に定義した5W2Hを使って呼び出せる値として定義します。すなわち、材料調達においては油脂売り場(Where)⇒香味野菜売り場(Where)間の距離は15m、調理においては、お湯を沸かす作業(What)を1番コンロ(Where)で行うときの作業時間は10分、といった具合です。

情報・データのことを数理最適化では入力変数と呼び、入力変数と決定変数を組み合わせて制約や目的関数を数式で定義することで、数理最適化のモデリングを行います。

ルール・前提条件と参照情報・データは、現実の中で選択可能なアクションを絞り込み、価値に評価を与える特徴から、イシューの骨格に対する「イシューの輪郭」と呼ぶことができます。

おわりに

いかがだったでしょうか?本コラムでは身近な意思決定の場面を題材に、意思決定デザインFWを使った認知のイシュー化手法についてご紹介しました。

後編ではもう少し踏み込んで、意思決定デザインFWを使う際のコツと身近なイシューとビジネスイシューとの共通性、最適化技術のビジネスユースケース発見のヒントについてご説明したいと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました、またお会いしましょう。

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